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二次創作小説by ふたみ
ただ一緒にいられるだけでいいと思っていた。
それだけで一番になれると思いこんでいた。
ともに過ごした時間も、積み重ねた記憶さえも踏みつけてきたわたし自身がその怖さを知らなかった。
その間違いに、わたし以外の誰もが気付いていたのだろう。
おばあさまも、おじいさまも。
そしてきっと葵も。好恵も。
やっとわかった。
浩之がわたしに何をしてくれるのか。
浩之はわたしに何を求めるのか。
ならば、知ることだ。
わたしは浩之に何をしてあげられるのか。
わたしは浩之に何を求めるのか。
わたしたちは、どこへ歩いていくのか。
答えはたぶん、近くにある。
「さて、と」
好きよ。
だからもう急がない。
「綾香」
そう、大きく息を吸って。
まっすぐわたしを見て。
「おまえは、きっとまだ寝てるな」
そうかもね。だって浩之が目の前にいる。
たったそれだけで夢心地なくせに、まるで不満げにしてるのなんて意外にわたしらしいとか思ったりしない?
「いつもの、自信たっぷりの来栖川綾香は深い眠りに就いてる」
逆なのにね。
わたしはいつも不安だよ。立ってられないぐらいの恐怖をいつも抱えてる。
他の誰にも、見せないようにしてただけ。
「まあ、それも悪くないかと思うけど」
だったらあなたにはぜんぶ見せてあげる。背中を預けてあげる。
芝居がかったおちゃらけなんかじゃ捌けないぐらいの、わたしの本気をぶつけてあげる。
「それでもオレは、笑ってる綾香が好きだ」
夢中にさせてほしい。
悲しんでなんかいられないぐらいに。
虜にしてほしい。
他のことなんか考えられないぐらいに。
「綾香」
「うん」
「好きだ」
「ありがと」
そのわずかに怯んだ表情だって、きっと予定調和。
わたしも、あなたも、そんなに簡単な人間じゃない。
「オレのために笑ってくれるか」
「どうすればいいか、もうわかってるんでしょ」
あなたが望むなら──、なんて言えたら楽なのにね。
だけど多分、それじゃダメ。
「一度じゃ足んねえんだな」
「うん」
「じゃあ何べんでも言ってやる。世界で一番愛してるぜ、綾香」
粟立つ感覚はきっと冷たい空気のせいじゃない。
だってもう、空の暗さもわからない。
浩之以外の何も感じない。
どうなっちゃうんだろう。
手に入れてしまったら。
この人なしでは生きていけない自分が、今なら容易に想像できる。
そんなの不公平だ。
わたしと同じぐらい、わたしを好きになって。
わたしと同じぐらい苦しんで。
そうでなきゃ、きっとわたしたちは一緒にいられない。
誰もが欲しがったあなたを独り占めになんてできない。
そんな簡単に、誰かのものになれっこなんかない。
「もっと」
「大好きだ」
「もっと」
「死ぬまで……いや、死んでも離さねえ」
「もっと言って」
囁きがわたしを満たす。
その積み重ねで、きっと耐えられる。
逢えない毎日も乗り越えられる。
「あー、だから」
「オシマイ? それだけ?」
「……悪りぃ。これ以上ボキャブラリーが続かねえ」
「まだ足りない」
言葉が足りなくなってから。
それからでいい。
抱きしめてくれるのはその後でいい。
黙っていてもわかることなんて、そんなにたくさんあるわけじゃない。
例えば今、涙でくしゃくしゃになってるわたしがどれだけ嬉しいのか、きっと浩之にはわからない。
それを伝えられたら。
息苦しいほどの思いが、みんな言葉で伝わるならばどんなに楽だろう。
「ひろゆき」
「……なんだ?」
嬉しくないのに笑ったりしない。悔しいくせに平気なふりをしない。
それがどれほど大事なことか、今はわかる。
でも。
「今度逢うときまでにね」
それでも。
「もっとバリエーション増やしておくこと」
「そうくるか……」
やっぱり、似合わない。
諦念。内省。自戒。後悔。
どれも、笑っちゃうほどわたしたちには似合わない。
わたしたちは共犯者だ。
世界中の誰に聞いたって、そう言うだろう。
みんなの寛容と期待でなんとか生きている。
それに応えるのが、わたしたちの生きる意味だ。
「わたしも、いっぱい貯めておくから」
「なにをさ」
「ナイショ」
「わけわかんねえし」
改めて心に刻もう。
わたしたちの関係を。
度胸と企み。
臆面の無さと、笑い飛ばす神経の太さ。
絶対の信頼。
必要なものはすべて揃っている。はじめからわたしと浩之の中にある。
だから溶けて混ざるわけでもないのに強く抱きしめたりしない。
顔が見えなくても不安に思ったりしない。
背中合わせに立つ相手の言葉を疑ったりしない。
引き剥がすことなど、できるはずがない。
「まあ、映画でも見て勉強すること」
「ハンフリーボガードってのは古すぎかな」
「その悪人顔で?」
私の指先で、ほんの一瞬大きく見開かれる瞳。
そして、いつもの表情。
「それは、ないか」
そういって笑う浩之に、またわたしは見とれてしまうのだ。
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おわり