「はーい、ちょっと待ってー」
呼び鈴の余韻にエコー付きの返事が重なる。続けて短く水を流す音。どうやらお風呂の掃除をしているところにかち合ってしまったらしい。
自分が朝のパニックで駆け抜けた後の惨状など、多分このみは知りもしないだろう。らしいな、とつい笑いがこみ上げる。
「ごめんなさいねー、いま水使ってて」
廊下の真ん中に小さなシルエットが躍り出る。朝日が差し込む奥のキッチンは、子供の頃からずっと私の憧れだった。
「……タマちゃん?」
「ただいまっ、春夏さん!」
その空間の支配者である、彼女とともに。