2003年6月22日は日曜日。

二周年記念


 出来事には始まりと終わりがある。
 でも終わることを想定して始められる恋愛はきっと少ない。
 それは、誰にも恋愛と認めてもらえないだろう。

木の葉のスケッチ その8

 僕と彼女の関係は、そんなものになる予定だった。
 春の風のような生ぬるい空気は、夏の日差しにきらめくこともなく、秋に実りを迎えることもなく、瞬く間に霧散してしまうのだろうとたかをくくっていた。
 ひとつの別れを経験した直後の僕に、気持ちの上だけでも人と何かを約束する勇気は残っていなかった。
 できもしない約束に追われ、引きつった愛想笑いを浮かべ、逢いたいのを我慢し、慎重に言葉を選び、絶対に自分の物にならない相手のことばかり考える関係に疲れ切っていた。
 だから僕は、彼女とは約束をしなかった。不機嫌なときはそれを隠さなかった。気分次第で時間を選ばず押し掛けた。言葉を飾らなかった。
 恋愛みたいなものを、随分と乱暴に扱った。

「ときどきでいいから、また話聞いてくださいね」

 授業の話。サークルの話。食事の話。家族の話。昨日はこんな本を読んだ。テレビは部屋にない。バイトを探している。下宿からキャンパスへの坂を歩いて登るのは大変だ。けど夜景は本当に最高だ。神戸に来てよかった。友達と部屋でワインを飲んだ。外にはあまり飲みにいかない。特に物価が高いとは思わないがそれほど余裕があるわけでもない。そのネックレスどこで買ったんですか。そういえばカットソーと靴買おうと思ってるんですけど。今度三宮の店教えてくださいよ。お返しにお手製シチューとかどうですか。お酒買って。うちの部屋で飲みましょう。いつでもいいですよ。待つの平気な方だし。いつでも、ほんと。

 とても新鮮だった。
 ひとりでいることに耐えきれず、日々の暮らしに没頭することでしか精神の平衡を保つことができなくなっていたあの人との違いが。
 待つことを楽しめる人がいるという事実が。
 僕と一緒にいないときも寂しくないと言い放つ彼女が、それでも僕を求めることが。

「○○さんって凄いなあ」
「何が」
「うーんと、ね」

 学校の最寄り駅から少し離れた閑静な住宅地。おいしい紅茶を出す店があるからと歩かされた二十分間は、彼女の近況報告に終始した。

「わたしね、友達とかといるとあまり喋んないんですよ」
「そうなんか」
「そおなんですよー、実は」

 意外そうな表情を作ってはみたが、まあ実際の所そうなんだろうと思う。姉御肌とまでは言わないが、同世代の女の子とかしましくしている様子が想像できない。
 横で黙々内職しているか、あるいはニコニコ笑いながら聞いているようで聞いていないタイプなのだろう。

「けどね、○○さんといると何か喋んなきゃいけないような気分になる」
「別に黙っとってもええけどな」
「あ、義務感じゃないですよ。実際聞いてもらってて面白いし」
「面白いゆーのんは変やろ……」
「だって何言ってもちゃんと答えが返ってくるもん。晩ご飯の献立と女性ファッション誌の話題が振れる男の人って他に知らない」
「それは褒めてんの」
「うん、褒めてる」

 それらに精通するようになった経緯を彼女は聞かない。そんな微妙な距離感が当時の僕にはとても気持ちよかったし、今必要なのはそういう相手なのだと無意識のうちに自分に言い聞かせてもいた。

「だからね、頑張んなきゃって思う。女の子として」

 やっぱり褒められてるとは思えないけれど、その自己完結した笑顔は確かに僕を癒していた。焼きたてのパンのように軽くて柔らかい“期待のかたまり”を、僕は幾つも幾つも彼女からもらっていた。
 いつか返さなきゃいけなくなるなんて、思いもしなかった。

「確かにまあ、オレに負けるようならオンナ失格やろけどな」
「うーっ……けど○○さんには勝てない予感もする」
「だからそれは褒めてんのか、って」
「褒めてる褒めてる」

 漫画なら一本の線で表現できそうなほどに目を細めて、彼女が笑う。オモチャにされるのを心地よく感じるのは随分と久しぶりのことだと気付いて、僕も笑った。

「聞き上手って素敵だと思うよ」
「褒めても何も出んぞ」
「褒めてない。これはのろけてるだけ」
「本人目の前にして何わけわからんことを」

 もうちょっとこんな関係を続けられたらいいな、と思いながら。


 ……もう二年か。

ぶーたれてる人もおることやし

 自分も見ててしんどくなってきたので元に戻しますた
 やっぱVer2.xベースで構築しなおしかねえ>a-news

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