水際の泡沫たち その2

 頭が痛い。
 胃の中には石でも詰まっているような気分だ。
 目の下の隈を隠すため、珍しく念入りに壁を作る。

 夕べは久しぶりに痛飲した。
 崩れないカナコさん伝説も、とうとう終わりを告げてしまった。
 おまけに泥酔状態のままプリクラまでさせられて。あの情けない顔が記念で残っているなんて、悪夢以外の何物でもない。

『カナコさーん……おれ、カナコさんのこと大好きだったんですよお』

 うん、知ってたよ。ゴメンね。

『どさくさにまぎれて何言ってんだコイツ!』
『谷本! 抜け駆けは卑怯だぞ」

 いやいや、みんなにも感謝してるわよ。君たちのフォローがあったからこそ、わたしは好きなように仕事ができたんだからね。

『なにいってんのよ、カナコ先輩は並の男じゃなびかないわよー』

 これこれ恵美ちゃん、勝手なこと言わんでくれ。
 一応わたしにだって結婚願望あるんだよ。
 これ以上男遠ざけてどうすんの。

     *

 わたしが配属される新規部署の詳細は誰も知らないようだ。部長ですら朝の幹部会議で初めて聞かされたという。
 でもわたしは辞令を受け取る前から設立に至る経緯を知っていた。

「この階って、なんか世界違うよね」
「なによそれ。ひょっとして嫌み言ってるつもり?」
「まさか、畏れ多い。けど、あの千絵が会話のニュアンスを読むようになるなんて、なるほど秘書業も楽じゃなさそうね」
「あんたねえ……浮いた話のひとつもない悲しいキャリアガールに愛の手を差し伸べてる友人に向かってずいぶんな言いぐさじゃない」
「はいはい。持つべきものは玉輿の友人、ってね」

 この日は同期で副社長付き秘書の安藤千絵と昼食を共にすることになっていた。
 多分いつものように、旦那の知り合いとお近づきになるためのセッティングをしてくれているのだろう。
 わたし自身は別にそこまでしてもらうほど落ちぶれてもいないと思っているが、単純に“同年代の女友達でお喋りのできる相手”と言うことで毎回話に乗ることにしている。今のところその気になるような相手には巡り会えていないが、千絵曰くそれはわたしの努力不足というか怠慢によるものらしい。

 実際、同期で会社に残っている女性は数えるほどである。ほとんどは寿退社してしまっているし、数少ない能力のある人間はバブルの最後の波に乗って独立していった。

 そんな中、社内で唯一の独身三十女であるわたしと、社長息子と結婚しておきながら『将来、夫を側で支えるための勉強を続けたいんです!』というもっともらしい理由で(しかし実際は『旦那は愛してるけどお義父さんの会社にいたら息が詰まる』から)秘書業を続けている千絵。この同期ふたりは社内でも特別浮いた存在だ。

 かつて“新人類”と呼ばれた平成一年生。わたしたちは、入社時には男達と全く対等の感覚で仕事に向かっていた。上司達の評価も、同期の中ではおしなべて女性の方が高かった。
 雇用機会均等法施行後の第一期生である先輩達が、昇進の時期を迎えるまでは。