「役員直轄、ですか」
朝からイヤな予感はしていたのだ。
「ああ。それに伴い、一日付けでおまえも室長だ。同期じゃトップ昇進だな」
出掛けにパンプスのヒールが折れた。
「部長以下五人の小さな部署だが、社長派の査察部長が目を付けてる。これまでのように自由には動けないと思ってくれ」
お気に入りのバッグのストラップが切れた。
「お前みたいに使えるやつをみすみす手放すのはオレとしても癪でなあ。色々やってみたんだが、会長の肝入りとあってみんなビビっちまってる。残念だが、どうしようもない」
こんな日の辞令なんて、絶対ろくでもない話に決まってる。
「それでも担当部長が外園だというのはせめてもの救いだよ。昼行灯みたいな顔してヤツは結構切れ者だからな。お前も含めて自分たちが割を食うような事は絶対にしないはずだ」
西尾部長、もう私は上司に何も期待してません。
「後の細かいことは外園に聞け。今は関連事業部で待機中だからいつでも相手をしてくれるだろう。もちろん困ったことがあったら遠慮なく相談に来い」
言うだけ言って、部長は会議に行ってしまった。呆然としている私を、パーティションの向こう側で聞き耳を立てていた同僚達が取り囲む。
「藤村さん室長ってマジっすか」
「やー、会社もちゃんと見るところは見てるんだなあ」
「けどカナちゃんいなくなっちゃったらうちの部大丈夫かな」
「ダメですよ課長、気持ちよく送り出さなきゃ」
みんな楽しそうだなあ。なんでだろ。
「よーしお前ら水曜日は明けておけよ。藤村さんの昇進お祝いで一席設けるぞ」
「オッケー。午後からのアポ全部キャンセルしますよ」
「カナコさんと飲むのって、久しぶりだよな」
胃の収縮する音が聞こえる。
「……中華は避けてね」
消え入るようなひとことが精一杯だった。