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2001年7月24日は火曜日。

木の葉のスケッチ その4

>>その1その2その3
 ああもう、誰かさんに追い立てられるように(笑)


 いたたまれない空気の中で、お互いの体温だけが救いだった。
 それは彼女が別れを告げた週末──どこにも出かけず、誰にも会わず、ただ何も言わずに抱きあったままふたりで過ごした時間と、なぜか似ていた。

 初めて自分から求めた最後のセックスは三十秒で終わった。
 羞恥も屈辱も無くただ茫然と果てた僕を、細い目がずっと見ていた。その残酷すら、世界でただ僕にだけ向けられているという一点で愛しく思えた。

 最初からすべて許し合ってしまった僕たちには、もう逃げ場なんてなかった。
 そして僕らはふたりの間に残った糊状の何かが粘着力を失うまで、朝までの長い時間をかけ未練がましく貼り付いたり、引き剥がしたりした。
 ときどき、泣いたりしながら。

 僕たちは、あの頃から欠片ほども成長していない。

「んあっ」

 腕も足も腹も酒精と乳酸に犯され、唯一残った自覚症状が頭痛という最悪の状態で、それでも僕は彼女の感触を求め声の方へ寝返りを打った。
 危うく転がり落ちそうになって、ようやく彼女がベッドの上にはいないことに気づく。

「何しとんの、自分」

 鏡台に向かったまま微動だにしない彼女。部屋の空気がすっかり固体化していることに気づき、僕はもがくようにして体を起こした。
 何だか、ものすごく焦っていた。理由はよくわからない。そこに座っている彼女がどうしても生きているように見えなかった。押し倒し、着衣を剥ぎ取り、つい先ほどまで感じていたはずの肉体の暖かみをもう一度確認しなければいけないような気がした。

「来んといて」

 瞬時にして猛りは鎮められた。嗄れた、聞き覚えのない声が僕を縛る。

「こっち、向かんといて」

 その二言目が解除の呪文だった。ベッドから身を乗り出したまま息もできずにいた僕の体は、ゆっくりと仰向けに倒れた。
 足下にいる女は、本当にあの彼女なのだろうか。ベッドと鏡台で満たされてしまう、あばらやのようなアパートにひとり暮らすこの女は一体誰だ。

「○○ちゃん」

 五感にも記憶にも自信がなくなってきた僕の名前を呼ぶ声。やはりその声には聞き覚えがないのだけれど、僕は精一杯の力で彼女の姿を思い描いた。
 でも、十年前のその姿は既に輪郭を失いつつあった。

「どないした」
「ありがとう」

 それが自分に向けられたものだと理解できなかったのは、ほんのわずかに残っていたアルコールのせいだろうか。あるいは、朧気な彼女の声のせいだろうか。

「なんや。感謝の心はあってんな、一応」
「甘やかしてくれて」

 言葉が記憶の堰をゆっくりと穿つ。しみ出す感情は、決して暖かくない。腹まで冷水に浸かっているような寒気の中、僕はむりやり会話を繋いだ。ばかばかしいことに、そんなことが贖罪なのだと思えてならなかった。

「いつものことやろ」
「そやね……いっつも、そやったね」

 魔法は溶けていた。
 いや、それは僕が勝手に作り出した妄想に過ぎなかったのかも知れない。


 さすがに引っ張りすぎでは>自分

あっ

 もーすぐ333333カウントではないかっ

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