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2004年8月20日(金)の日記

実は公式ウェブにて

 感想集を作ったら、と話してたんですよ。
 ジサクジエーンで。「兵庫県 37歳 男性 無職」とかの匿名で。
 もちろん嘘八百もアリということで妙にIRCでは盛り上がったのですが……。
 MIOさんはエスパーですか。
 腹抱えてワロタので消えないうちに見ましょう。本編既読の方も未読の方も。そして未入手の方はぜひ真相をお確かめアレ。まだ在庫ありますんで、頒布方法が確定次第お知らせしまつ。
 あ、真面目な感想は久々野さんちでね。

もはや年一ペースだったり

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 元気にしてますか
 なんだろ 声聞くのが久しぶりだからかな
 すこし緊張してる
 ええ その約束は覚えてます
 でもどうしてもあなたに見てもらいたかったから
 わたしが ちゃんとできてるって
 安心してねって
 だから できれば来てほしい
 忘れてたのならバカみたいだけど
 場所はね──

木の葉のスケッチ その10

「電話だれでしたん」
「誰でもええがな」
「やー、△△さん以外の女性やったら問題でしょ」

 昔ながらの学生アパートである我が住処には個別の電話が引けない。毎年新しい住民からは不満の声があがっているはずだが、大正生まれの大家は一向に対処するつもりがなさそうだ。実権を握りつつある息子夫婦に、地上げ屋がワンルームマンションへの建て替え計画を持ちかけているという話も聞く。そんな状況では新たな設備投資など望むべくもない。
 実際、普段の生活の中では呼び出し電話もそれほど不都合じゃない。高い加入権を購入して実家の親から毎日小言を聞かされるぐらいなら、今の方がよほど気楽でいい。ただ一点、さっきのように「○○さん“女性の方”から電話です」と全館放送で呼び出されることを除けば。

「しかし」
「何じゃ──ってポン」
「いや、こんなやる気ない人のどこがええんかと」
「全部やって」
「ほほう。五萬チー」
「考えんの面倒くさいから☆リーチ!」
「リー棒出てへんうちはリーチじゃない攻撃」
「あ即」
「だからリー棒出せって」
「ロン言うてへんから和了ですらないな」
「○○さんごめん、モロ裏」
「あートビトビ、マイナ42な。ちょっち抜け」

 起死回生の大三元テンパイを伏せて河に崩す。タバコの煙が充満した四畳半からアパートの外へ出ると、目の前の坂を新型プレリュードと190Eが連なって上っていった。
 ドライブウェイを抜けた裏六甲にはホテル街が広がっている。峠族のメッカであると同時にアベック御用達でもあるこの山から、僕はもう一年近く遠ざかっていた。
 直接的な理由は、もちろんバイクを手放したことだ。
 ではなぜ日々の足としても使っていたそれを手放したのか。
 視線を浜側に移す。阪神高速3号神戸線の向こう側には、造成途中の六甲アイランドでドラッグレースに興じる車のランプまでがくっきりと見えた。

 明日の午後一時。
 場所は控えた。他の予定はない。
 一年ぶりに聞いた声に、僕は悔しいぐらい動揺していた。
 忘れてなんかいない。それどころか、忘れようという努力を続けることで毎日のように思い出している。
 ゼミや後輩のクラスで公認カップルとなり、冷やかしすら滅多に聞かれなくなってきた近頃でさえ、僕は「新しい彼女」とのお付き合いを意識的に「遂行」していた。
 だからまだ、測りかねている。
 あの人が独り立ちの証明だと主張する、学会での発表を見に行くべきかどうか。

『できますよね』

 たくさんの約束をした。
 二度と会おうとしないこと。
 二人の関係を今後一切口にしないこと。
 思い出すようなものはひとつ残らず捨てること。
 偶然街ですれ違っても、お互い知らない人で通すこと。
 彼女は帰ってくるはずの夫と、僕は「新しい彼女」と幸せになること。
 すべての条件は僕の方から出したものだった。

『○○君には、できるの』

 はじめから終わることがわかっていた関係だった。
 彼女は確かに家族を愛していたし、僕もそれを深く理解していた。彼女がいかに子供を大切に思っているかは何度となく聞かされていたし、部外者である僕が彼女の存在する空間を心地よく感じるのは単に親元を離れた一人暮らしの侘びしさを「家族的なもの」で埋めているだけなのだと分析できていた。

『できますよ。僕はあなたたちが大好きだから』
『厭な子』

 あのとき、彼女が「ありがとう」と言わなかったら。
 あのとき、僕が「忘れてください」と言えたなら。
 誰も望まなかったあの時間は、もっと早くなかったことになっていたはずだった。

『だから、僕はあなたたちを忘れます』

 三月。
 須磨の砂浜に吹く風が、日の暮れにあわせるように冷気を増していく。

『待っててよかった、って言ってあげてください』

 白く砕ける波から、僕の苦手な潮の香りが押し寄せる。
 もう半分、自分の匂いになっていた彼女の香りを剥ぎ取っていく。

『あなたは』

 彼女の枕元にはいつも家族の写真が置いてあった。中高一貫の寮に入っている息子さんと、何年か前に突然姿を消した旦那さん。その前で繰り広げられる笑い話にもならない自虐が、彼女にとっては精神の平衡を保つ最後の手段なのだと最初に気付くべきだった。

『あなたは、わたしを』

 あの頃の僕には、「家族の形」を維持するために日々の空虚と闘っている彼女がとても潔く見えた。教職の資格を活かし、同じ塾で講師のアルバイトをしていた実質一人暮らしの彼女に近づいたとき、お互いにこれほど依存してしまうなんて想像できなかった。
 自分は常に冷静でいられる人間だと思っていたし、彼女はそれ以上に大人で、親で、妻であると疑いもしなかった。

『いっつも、子供にしちゃうのね』
『あなたは大人ですよ』
『違うわ』
『違わない。あなたは大人で、僕は子供だ』
『都合のいいときだけ子供にならないで』

 あなたこそ、と言いかけてやめる。
 彼女がどうだったかはともかく、僕が大人であろうとしていたのは確かだ。今こうして格好良くサヨナラを決めようとしているのも、間違いなくその延長。

『大人の恋はね、そんな綺麗じゃない』

 強い浜風が彼女の声を押し流す。
 ああ、きっとあれは僕に向けた言葉じゃないんだな──と、気付く。
 僕が彼女の中に残した澱を、音にして吐きだしているのだと。
 こうして彼女は大人に、親に、妻に戻るのだと。

『あなたが大人を演じてるつもりでいたなら』
『精一杯でしたよ』

 遮る言葉を、丁寧に選ぶ。
 視線を合わせないように。
 僕は完璧な別れが欲しかった。
 後悔など入り込む余地のない、完全無欠の終結を。
 彼女が大きく息を吸う。

『──最後に、ひとつ言わせて』
『はい』

 今日の僕には、ひとつの真実もない。
 彼女の他に惹かれた女性などいない。
 彼女の付属品など愛していない。
 忘れることなどできるはずもない。
 彼女の元に、いつか夫が戻ってくるなんて思っていない。
 ぜんぶ嘘だから、貫ける。

『わたしは、あなたの何』
『あなたは』

 一歩。
 また一歩。
 砂を踏みしめて彼女が近づく。
 飛んでくるはずの平手打ちに身構える。

『あなたは、僕の』

 たったひとつの真実が、僕の口から吐き出されないままに消えた。
 人差し指がかさついた唇を押さえている。

『聞きたくないわ。言いたかっただけ』

 それもきっと嘘だ。
 今日のあなたも、嘘で固められている。
 その笑顔も、この場所も、吹く風も交わした言葉も。
 そして、問いへの答えもぜんぶ「嘘」だ。

『ありがとう』
『さようなら』

 泣くのは、部屋に帰ってからでいい。
 長いリハビリが待っている。


街の魅力伝える コンシェルジェ

 東京新聞。
 中心市街地活性化の流れの中で、特に観光地においてはこうした「まちの案内人」の必要性が強く訴えられてきた。実際に功を奏してきた事例は今回の吉祥寺以外でも全国各地に存在し、TMO(まちづくり機構)の計画策定などにおいても必ず「やるべき」と提示される方策のひとつだ。

 しかし、実際にコンサルタントとして中に入った経験も含めて気になるのは、そのまちを訪れる人が求めている情報と、実際に携わる人たちが提供できる情報に質的なすれ違いが生じていないか、ということ。特に旧来の観光地であると同時に若年層ではカルト的盛り上がりを見せているエリアや、遠隔地からの来訪者が中心だった地域が交通の発達(あるいは退化)により日常の生活支援型商業地域に変貌していたりするケースだ。

 極端な話、高齢者と若年者の求める情報には大きな格差がある。神戸を例にとっても、大阪京都奈良滋賀あたりからやってくる人、四国岡山鳥取島根和歌山あたりからやってくる人、もっと遠くからやってくる人では求める情報がまったく違う。それを無視して、商店街や地域住民の思いこみだけで「演出すべきまちの姿」を絞り込んでしまう過ちがあちこちで起こっているような気がする。

 もちろん、用意できないものをむりやり存在するかのように見せるのは無理だ。しかし基本的にトップダウンで構成されていく都市計画とは異なり、まちづくりはあくまでボトムアップである。このふたつを混同し、都市計画上の戦略に地域住民参画を必須のものとしたり(特に近年その傾向が顕著で嘆かわしいことだ)、まちづくりをシステムに組み込もうとする(日本型NPOに依存するまちづくりはこの罠に陥りやすい)のは愚の骨頂だ。
 この項続くかも。

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