「家族の風景」最終話

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 レバーを引き出し、フィルムを巻き上げる。
「うまく撮れるか、わかんねーからな」
「えーっ! 浩之ちゃん、綺麗に撮ってよー」
「露光はセミオートだからピントだけ合ってれば何とかなる…んだっけ」
「浩之さん、頑張ってくださいっ!」
「頑張ってどうこうなる問題じゃねえぞ」

 次の日曜。
 例によって昼前ぐらいに起き出して居間へ降りると、マルチとあかりが楽しそうに料理をしていた。
「あ、浩之ちゃん」
「おはようございますー」
 あいさつもそこそこに、ふたりは料理を再開する。
「おまえら、何…」
 そこまで言いかけて、やめた。
 楽しそうなふたりの邪魔をしたくなかっただけじゃない。
 キッチンを占有するふたりの姿が、全く違和感を感じさせないこと。
 自分がその風景をずっと見ていたいと思ったことに、驚きを禁じ得なかった。
「なるようにしか、なんねーよな……」
 勝手に口をついて出たセリフは、なげやりでも自虐的でもなかったと思う。
 ふたりが、こっちを向いて笑ったような気がした。

 結構な悪戦苦闘の後、ようやくセルフタイマーの準備が終わった。
「10秒後にシャッター降りっからな。じゃ、いくぞ?」
 ダッシュであかりのとなりに戻る。
「浩之さん、あかりさん、お似合いです~」
「マルチちゃん! ほら、あなたも入らなきゃ」
「えっ…わたしも入っていいんですか?」
「おめーが入らなきゃどうすんだよ。ほら、早く来い!」
 ランプの点滅が早くなる。

 この先、どうなるのかなんて判らない。
 それでも、この写真を笑って見られるなら――それがきっと素晴らしい未来だ。

 幸せの記憶を残す機械。
 まだ重いカメラを手に、そんなことを思ったりした。

【家族の風景 おわり】

あとがき

 『To Heart』の作中では、しばしば浩之が昔を振り返る情景が出てきます。
 しかしそれは、あかり(とレミィが若干)が絡んだ話が殆どで、そこに登場するのは基本的に浩之、あかり、雅史の3人だけです。
 最初「結構ドライな家族関係なのかな」とも思いましたが、日常の浩之の生活ペースを見ていると、それなりに家族に依存した生活を送ってきたことがうかがえます。
(例えば朝起きられない、食事が用意できない、その割に急いでいても朝食を取る…など。異論はあるかも;)
 意外に『ちゃんとした家の子』というイメージがあります。
 ちゃんとした家の子は朝自分で起きられるって?いやいや…

 で、そんなときに『ARMS』のお母さんの話を読みました(いきなりそれか)。

 「このお母ちゃんええ味だしてるなあ」と笑って、ふと思いついたのがこの話です。
 色々『To Heart』のSSを読んでみましたが、浩之の両親に関する話は記憶になかったので(まあそんな話、探しもしないし…。自分で書いてて「こりゃ普通書こうとも思わんわ」と後悔しました。全然『To Heart』にならない(笑))、勢いに任せてでっち上げてしまおうと思ったわけです。

 元々勢いだけですから、話を収拾するのに苦労しましたが(それは他の話も同じ;)、とりあえず終わらせることが出来たので良しとします。

 ディテールは、完全に趣味に走っています。両親ともエンジニアであること、母ちゃんの方がメカに強いこと、けど父ちゃんの方が妙に凝り性なところ…。こんなのもいいかなー、と。
 どちらかというと周辺にいる同年代の人間の行動を参考にしてる部分はあります。例えば結婚前に趣味の品を揃えておきたいとか、子供が産まれてからでも共働きで結構派手な買い物してるとか…。世代的にも、勝手に《新人類》な人だと言うことにしてしまいました。ただ、二十歳そこそこの息子とこういう応対ができる両親というのは少ないのかも知れませんね。ふたみは少なくとも親父とはこういう会話をしたことがありません。

 作品の反省点としては…相変わらず心情描写ばっかりで情景の描写がないこと、お母ちゃんの口調が志保(綾香?)と殆ど変わらないと言うことです。
 特に途中から綾香関連のSSへ没入してしまったこともあり、自分の持ちキャラの少なさに愕然としてしまったというのが正直なところだったり。
 それと忘れていけないのが、ピナレロさんの「かわいいひと」。葵ちゃんシナリオベースの浩之母SSなんですが、これを読んだおかげでしばらく執筆意欲が減退しました(笑)。激しく後悔しましたね、書いてる最中に読んでしまったことを。いやほんと、すばらしい作品です。
 「りーふ図書館」に納められていますので、ぜひご覧になって下さい(強く推奨)。

 ともかく、あとがきも含め、読んで下さってありがとうございます。
 特に1、2話のアップからお付き合いいただいた方には、深く感謝&陳謝です。